バラに愛された男
きっと誰もがもう一度、会いたくなる。寺西さんの人柄を表現するのに、この言葉は決して過言ではないはずだ。この世界で知らない人はいないであろう、日本を代表するバラの育種家の一人、寺西菊雄さん。近年までは、日本のバラ専門ナーセリー(育種業者)であるイタミ・ローズ・ガーデン(Itami Rose Garden)の園主を務めていた。
温かく優しいまなざしに、太い芯が一本感じられる堂々とした佇まい。会話をすればするほど更に彼を知りたくなる。そんな彼のバラ人生に迫ると、バラへ愛を注ぐ人は沢山いても、バラからこんなにも愛を注がれている男はいないかもしれない。そんなことさえ感じる。
新伊丹駅のバラロード
イタミ・ローズ・ガーデンを退職し、今はご自宅でバラを楽しむ生活を送っている。寺西さんにもゆかりのある新伊丹の駅前には小さなバラ園があり、駅から街へと続いていく一本道には、真っ直ぐのびるバラロードがある。5月になると彩り豊かなバラ達が満開に咲き誇る。
新伊丹駅から程近い鈴原小学校内にも、寺西さんもそのデザイン等に携わったというバラ園があり、今回はこのバラ園でお話を伺うことができた。小学校に通う学童だけではなく、近所の人にとってもそこが憩いの場となっていたのが大変印象的であった。新伊丹に来ると、彼自身や彼のバラの世界が街全体からも愛されていることが分かる。
寺西さんの好きなバラ
叔父の影響を受け、バラに触れるようになったのは4歳のころからだという。中学3年生頃には、かの有名な「天津乙女」の育種に成功し、バラの世界に入り込んでいく。半世紀以上バラの仕事をしていた彼だが、「辞めたいと思ったことは一度もない。」そう言い切る姿は、まさに職人の顔である。
ご自身で育種したバラで、思い入れが強くお気に入りのバラは、という問いに対して彼は迷いなく「天津乙女と、マダムヴィオレ」だという。天津乙女は、ハイブリッドティーローズの系統の、1960年に作出した四季咲きの上品な黄色のバラである。マダムヴィオレは、同じくハイブリッドティーローズの系統の、四季咲きの薄紫色のバラである。どちらも、まさに日本人を表すような気品のあるバラだ。
今後のバラの世界にのぞむこと
「バラの本は、マニアでないと分からないものが多いのです。」「庭がなくても、鉢でしっかり肥料をあげながら育てれば充分に育つので、もっと生活の一部として楽しんでほしいです。」生涯をバラに捧げてきたともいえる彼の見ている世界は、実は私達の身近にもありそうだ。バラを育てるのには大切なのは、「肥料」だそうだ。あくまでシンプルである。
「与えすぎないのも、与えすぎるのもよくない。鉢の角に3つほど穴をあけて、骨粉と油カスを同量混ぜたものをバラの具合と相談しながら与えてあげるだけで成長はだいぶ異なります。」土替えは年に一度だけ。
「育てる時のコツは、天津乙女の育種に成功したあの時から何も変わっていない、バラはとてもシンプルなのです。」この言葉は、誰もが認めるバラのプロであり、まさにバラを真っ直ぐに愛してきた柔軟な彼を表現している。きっと誰もがもう一度、会いたくなる人。彼の更なる活躍を誰もが楽しみにしているにちがいない。